恋は天使の寝息のあとに
第十章
私と恭弥は毛布にくるまり、ベッドの脇に背中をもたれ座っていた。
すでに恭弥は寝息を立てている。
彼の肩に身体を預けていたのは私だったはずなのに、いつの間にか眠りについた彼が少しずつこちらへ倒れてきて、今ではお互いがもたれ合う形で丁度いいバランスを保っている。

普段鋭い表情ばかり見せている彼のあどけない寝顔。
こんな顔もできるのかと、なんだか可愛らしく思えてきて、頭を撫でたい気分になる。

この毒気のない彼が本来の彼なのではないか。
最近になってやっと、彼のぶっきらぼうな態度の裏にある優しさに気づくことができたから、案外彼の暴言も心地良く感じられてきて
その乱暴な言葉遣いと思いやりは飴とムチのように甘く痛く。
中毒にでもなってしまったかのように私の心を捕らえて離さない。

どうしようもない彼の、ぶっきらぼうな台詞で、分かりにくい優しさで、不器用な愛情表現で
いっそのこともっと私を傷つけて、抱きしめて欲しい。
そんなことを思う私はおかしいのだろうか。

『人生全て捧げる』なんて、大胆なことを平然と言い切ったり
強引な口調で『そばにいろ』なんて命令したり

せっかく私が築いた壁を、彼はあっさり叩き割って
私の懐に潜り込み、無防備なところを強引に抱きしめてくる。
七年間、私が知ろうとしなかった恭弥という人物は、そういう人だった。


衝動に任せて逃げ出してきたから、気分が高揚して眠れなかったけれど、左側から彼のぬくもりがじわじわと伝わってきて、眠気が押し寄せてきた。
このまま眠ってしまったら、恭弥と交わした約束も全て夢と消えてしまいそうで、せめてもう少しだけこの横顔を見ていたいと思った。

寝息だけが響く静かな宵闇。

こんな穏やかな時間を過ごすのは、久しぶりだ。


朝になったら、ちゃんと翔と話をしよう。
逃げ出したことを謝って、もうそばにはいられないと、私の気持ちを伝えに行こう。

だからそれまで、もう少し
せめて朝日が昇るまで
この穏やかな時間を、私にください。
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