恋は天使の寝息のあとに
私がちらりと恭弥に目をやると、彼も視線をこちらに寄こした。

何を思っているのか、憮然とした表情をしている。

やがて恭弥が口を開いた。

「別に、俺のことを愛そうなんてしなくていいから」

ハッと顔を上げた私に、恭弥は続ける。

「結婚する理由が必要なら、心菜のため、でいいじゃん」


何それ、どういう意味?
心菜のために、生活を楽にするために、愛なんて必要ないってこと?

「ねえ、恭弥は、愛なんて無くても心菜のためなら結婚できるの?」

恭弥はしばらく間を置いたあと静かに頷いた。

「……そうだな」


そうだな、って……

呆れを通り越して、なんだか哀しくなってきてしまった。

待ってよ。結婚ってそんなものじゃないでしょ?
愛を誓い合って、人生を共に歩んで行こうって約束して、これから先の長い道のりを手を取り合って生きていく――それが幸せなんじゃないの?

確かに恭弥は心菜が大好きだから、心菜の本当のパパになれるのは嬉しいことなのかもしれない。
でも、私のことは?
愛してもない人と――私と結婚して、恭弥は幸せって思えるの?


そもそも愛し合うつもりがないのなら

どうして今私にキスしようとしたの?
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