恋は天使の寝息のあとに
「じゃあ、昼頃お願いしてもいい?」
「OK~」

由利亜さんは軽快に返事をすると「じゃあ明日!」と言って客席の人混みに姿を消した。
去り行く彼女を見つめながら、恭弥は腕を組み唸る。

「なぁ。今の人、心菜のクラスメートのお母さん?」
「……そうだけど?」
「子どもは、男?」
「……そうだけど」
「心菜に、仲の良い男の子がいるのか!?」
「……はぁ?」

あまりに深刻な恭弥の物言いに、私は呆れた声を上げた。
何、思春期の娘の男関係を問い詰めるパパみたいな顔してんのよ。

「あのねぇ、心菜、まだ一歳なんだよ?」
「最近はいろいろ早いっていうから」
「早すぎるよ」

私の突っ込みも何のその、恭弥は神妙な面持ちで考え込む。

「まさか、手ぇ繋いだりなんてしてないだろうな」
「するよ。さっきだって入場のとき、他の子と手繋いでたじゃん」
「あれは相手がお姉さんだったろう!? 男と手ぇ繋ぐなんざ百年早い!」

いやぁ、していると思うなぁ。
そもそも保育園では、お散歩で園外を歩くときに、みんなで手を繋いで列を作るという決まりになっていたはずだ。
が、恭弥がショックを受けると可哀想――というか面倒くさいので黙っておこう。
< 34 / 205 >

この作品をシェア

pagetop