恋は天使の寝息のあとに
運動会が無事に終わって、私たち三人は家に帰ってきた。

「心菜、今日は頑張ったな」

恭弥が心菜を抱き上げると、心菜はきゃっきゃっと喜びを全身で表現した。

そんな様子を眺めながら、どうしても私は変わり果てた恭弥の姿に違和感を感じていた。
心菜は恭弥の見た目が変わっても、ちゃんと本人だと分かっているのだろうか。
子どもは人を外見で判断しないということ? だとすれば、嗅覚? いやいや、それでは犬になってしまう。
見慣れない恭弥の爽やか過ぎる笑顔に、私は目をしぱしぱさせた。


しばらくすると疲れていたのだろう、心菜は自らリビングのカーペットの上にころんと横たわり、眠りに落ちた。
恭弥は起こさないようにそおっと心菜を抱きかかえると、隣の寝室に運び、引きっぱなしになっていた布団の上へと横たえた。

心菜がおとなしくなると、それは沈黙の時間の始まり。

いつも通り、私と恭弥は特に会話もなくお互いの時間を過ごす。

私は朝から放ったままにされていた食器を洗ったあと、台所の隅にある四人掛けのダイニングテーブルにひとりで座って、紅茶を飲みながら夕飯は何にしようかと思いを巡らせる。
一方恭弥は、リビングのソファにふんぞり返ってテレビを見ていた。

「沙菜」

ふと恭弥がリビングから私に声をかけてきた。

「……何?」

私が恭弥の方へ身体を傾けると、彼はこちらを振り返りもせず、テレビを見つめたまま言った。

「よかったな。ママ友っつーの? 出来たみたいで。
保育園入る前、言ってなかったっけ? 無事に友達できるかなって」
「……あ……」

そういえば、そんなこと言ったっけ。
自分で言っておいてすっかり忘れていた。

そして驚いた。私が何の気なしに溢したであろう不安を恭弥が覚えていてくれたことに。
じんわりと嬉しさが込み上げてきた。

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