恋は天使の寝息のあとに
「さあぁぁぁ心菜! 今日はどこへお出かけする? お前の好きなところどこでも連れてってやる!」

肩車で部屋の中をうろうろと歩き回りながら、彼はご機嫌な台詞を叫ぶ。
身長が百八十センチを越えている彼が肩車をすると、心菜の頭は天井すれすれで、見ているこっちが冷や冷やした。

そんな彼らを横目に、私は出かける準備に奔走していた。
着替えて、メイクして、心菜の荷物をバッグに詰め込んで――
おやつ、ジュース、換えのおむつにバスタオル。服を汚すかもしれないから着替えも持って行かなくては。
今日もバッグの中はパンパンだ。

私は慌しく部屋中を駆け回りながら、出かける場所を決めかねている彼に向かって声を張り上げた。

「行くところ決まってないなら、私の好きなところでもいい?」

すると彼はこちらをちらりとも見ずに言った。

「お前の行きたいところに行ってどうすんだよ」

先ほどとはうって変わって低い声。
あまりにも冷たくあしらわれて、しかしそれはいつものことだったから、今さらたいして驚きもしなかったのだが。

……ああ、まあ、わかってたよ。うん……

ちょっぴり悲しい気分になる。

「……秋服、欲しかったんだけどな」
「服ぐらい、適当に通販で買えばいいじゃん」

冷め切った声に、さっきまで心菜とべろべろばーをしていた男と同一人物だろうかと疑いたくなってくる。

……まぁいいんだけどさ。いつものことだし。
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