恋は天使の寝息のあとに
私がおそるおそる恭弥を見上げると、彼もなんだか複雑な表情で眉を寄せていた。

「そうなのか?」

短く尋ねる恭弥に、「全然大丈夫だから!」と慌てて答えると
「ほら、また無理しちゃってる」由利亜さんが私の額を指で小突いた。

「お兄さん、たまには沙菜ちゃんのことも気使ってあげてくださいね。
リフレッシュさせてあげないと、育児ノイローゼになっちゃうかも……」

そんな怖ろしいことを言いながら由利亜さんが私の両肩を持った。
そのままずいっと恭弥の方へ私の身体を受け渡す。
うまいことやってあげてくださいね、とでも言うように。

「……どうすればいいんだ?」

困惑した表情で、面倒くさそうに答える恭弥。

「そぉねぇ……」

由利亜さんは唇に人差し指を当てて、何かを企むような不敵な笑みを浮かべた。

「そうだ!
私、ここで利哉と心菜ちゃんを見ててあげるから、これから二人でドライブにでも行って気分転換してらっしゃいよ」

由利亜さんは、私の腕から心菜を引き取って、そのままドンッと勢いよく私の背を押して恭弥の方へと突き飛ばした。
恭弥は飛んできた私の身体を支えながら、迷惑そうにぴくりと片眉を上げる。

「ちょっと、由利亜さん!?」

「たまには子どもから離れて息抜きするのも大事なのよ?
自分に余裕が出来てこそ、子どもを大切にできるんだから」

「いやっ、でも……!」

うろたえる私に、恭弥が冷静に答えた。

「だったら、俺が子どもたちを見てるから、あんたら二人で行ってくれば?」

「お兄さん、子ども二人も面倒見れる? 男の子って女の子と違って結構やんちゃで大変よ」

「……」

さすがに子ども二人――ましてや、ひとりは完全に他所の家の子だ――を世話する自信がなかったのか、恭弥は何も言えずに押し黙る。
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