恋は天使の寝息のあとに
こちらにはお構いなしで廊下をずかずかと進む恭弥。

「あ、あの、恭弥? さすがに由利亜さんや心菜を置いて行く訳には…」

「あのなぁ。お前がそうやって遠慮ばっかしてっから、周りが心配するんだろ」

恭弥は不機嫌にそう言うと、私の頬を思いっきり引っ張った。

「ひ、ひはい!」
痛いと言ったつもりだったが、頬が引き伸ばされて上手く発音ができない。

「お前さぁ。自分が思ってる以上に周りが心配してるって、自覚しろよ」

恭弥は呆れた声でそう言いながら、玄関で私の腕を解放した。
靴を履いてポケットから車の鍵を出し、指にかけてチャリチャリと弄びながら

「さっさと来い」

乱暴に言い放って、玄関を出て行ってしまった。

「ちょっと待ってよぉ」

私は情けない声を上げながら、慌てて靴を履く。

恭弥ったら、本当に心菜を置いて、二人だけで行く気なの!?

私が後ろを振り返ると、リビングから心菜と利哉くん、由利亜さんの三人が並んで手を振っていた。
にっこにこ笑顔でバイバイする心菜。

バイバイってあんた。しかもそんなに嬉しそうに。
行かないでママー! って泣き叫んでくれたなら断れたのに。

「ゆっくり羽伸ばしてきてねー!」

由利亜さんが笑顔で叫ぶ。

仕方なく私は、恭弥の後を追いかけて玄関を出た。
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