涙の雨と君の傘
「名瀬、待って」


私の心の焦りなんて知らず、そう引き留めてくるかすれ声。


振り返ると、フラフラした足取りで、笹原が近づいてきた。

静かな部屋に、笹原の少し苦しそうな息づかいと、微かな雨の音。



「……雨?」


曇ってはいたけれど、来る時は降っていなかったのに。


「ほんとだ、降ってるね。……名瀬、傘は?」

「私が持ってると思う?」

「だよね」


さすがにこの時期に濡れるのはまずい。

笹原に傘を借りようか。

コンビニまで走って借りてもいいし。



「名瀬、これ」


笹原が差し出してきたのは、リボンのついた縦長の包み。

反射で受け取ると、それは軽くて、ちょっと固かった。


「なに?」

「開けてみて」


戸惑いながら包みを開くと、中から出てきたのは、


「傘……?」


水色の、折り畳み傘だった。


「ちょうど良かったよ。それ、使って」

「なんで……」






「だって名瀬、誕生日でしょ」






渡せてよかったと、笹原は嬉しそうに笑う。



どうして。

どうして笹原が、そんなに嬉しそうに笑うの?
< 44 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop