As sweet honey. ー蜂蜜のように甘いー
「うん、もう決まったことみたいだから」
「だよね……」
その事を最後に、悠太が私のお見合いついて話してくることは無かった。
それから数日経って、今日もまた悠太の撮影に連れていかれていた。
今日は『放課後デート』を題材に、街中で雑誌の撮影。
カフェや雑貨屋さんなどで、彼女目線の写真が撮られる。
そして今は、川の前にあるウッドデッキ調の小さな広場。
放課後の街中で、それなりにギャラリーも集まっていた。
「はーい、目線はカメラね!彼女にクレープを食べさせてあげる感じで!」
言われた通り、手に持つクレープを笑顔で差し出す。
「おっけい!!今日の撮影はこれでおしまい!あ、悠太くん、そのクレープ食べちゃっていいよ」
「ありがとうございまーす」
そのクレープを手に、スタスタとこちらへとやって来た。
「千代、一緒に食べよ?」
「うん!」
「じゃあ、はい」
「じ、自分で食べるよっ」
「ほら、いいからー」
「しょうがないなー……あむっ」
お、美味しいっ
イチゴと生クリームとカスタードの、シンプルなものだけど、今まで食べた中で1番といっても過言ではないくらい美味しい。
その瞬間、パシャッと聞き覚えのあるシャッター音が鳴った。
「!?」
パッとその方向に視線を移すと、再びシャッターが切られた。
「さ、佐藤さん!?」
写真を撮っていたのは、カメラマンの佐藤さんだった。
「いやー、ごめんごめん。つい、ね」
「つい、じゃないですよ!」
「千代、鼻に生クリームついてるよ」
悠太が私の鼻に手を伸ばす。
「え、あぁ、ありが……」
パシャッ!
またもシャッター音
「佐藤さん!?」
「佐藤さん、どうですか、今の」
「いいねー、流石プリンセスの娘って感じだよ」
「てことで、その写真後で下さいね!」
「任せな!」
親指を立てて決め顔の佐藤さん。
整えられた唇の下のちょび髭が、ダンディな雰囲気を醸し出す。
何故か佐藤さんと悠太の間で、謎の協定が組まれているのだが、私にはさっぱりだった。
って、そんなことより写真!
「佐藤さん、その写真消してください!」
「えー」
「えー」
二人してそう言う。
「でもねー、裕一郎さんには『娘の写真なら、どんどん撮ってくれ。んで、必ず私に印刷したものをくれたまえ』って言われてるんだなー」
パ、パパが!?
裕一郎というのは、パパの名前。
「社長、千代のこと大好きだもんね。仕事で忙しい分、写真で娘の成長を見守りたいんだよ」
「そ、そういうものなの……?」
「うんうん。うちの娘も、今は『パパー』って甘えてきてくれるものの、いつか離れていってしまうんじゃないかって思うとねぇ……はぁ」
そういえば、佐藤さんにも2歳の娘さんがいるんだっけ。
「っと、俺もそろそろ片付けないとな。悠太くん、写真はまた後日事務所に送るよ!」
「ありがとうございまーす」
「なんで悠太が私の写真……」
「大丈夫、ちゃんと僕も写ってるから。記念だよ、記念日。最近二人で写真なんて撮ってなかったでしょ?」
「ま、まぁ、それは確かに」
でも、写るならクレープ食べてるところじゃなくて、ちゃんと写りたかった
佐藤さんはああ言ってたけど、変に写ってないといいな……