正しい紳士の愛し方
満との通話を終えて、ちょっとぬるくなったレモンティーを啜る。
窓の外を歩く人を眺めながら。
お昼が近づくと、喫茶店が提供している軽食を求めてポツリポツリと客が増えてくる。
樹はレモンティーをグッと飲み干して、お会計を済ませ、店を出た。
ゆっくり歩く人、足早に歩く人、二人で足並み揃えて歩く人々、様々だった。
世の中にはこんなにも沢山の人間がいる。
でも、すれ違う大半の人が二度と会うことはない。
そう思うと、彼との出会いにどうしようもない運命を感じずにはいられなかった。
正午にはやっぱり少し早い。
どんなにゆっくり歩いても、足が軽くて彼が住むマンションに着いてしまつた。
まぁ、いっか……
樹はマンションのエントランスに入り、あらかじめ教えてもらっていた部屋番号を入力する。
プルルルル……プルルルル……
数回の呼び出し後に『はい』と大和さんが出る。
「樹です。少し早く着いてしまったのですが……。あっ、約束の時間じゃなきゃいけないなら、またその時間に出直して……」
『構わないよ。入って』
彼がそう言うと、横開きの大きなドアが開いた。
「ありがとうございます」
樹はペコッとお辞儀して中に入った。