エリート上司に翻弄されてます!
今日ほど慣れというものを恐ろしく感じたことはない。
取り敢えず終電には間に合わねばと方向転換し、そして玄関の方へと向いた。
久しぶりにこの家に帰ってきて、私はこの家の居心地の良さを思い出してしまった。
あの時のように乾先輩の優しさに甘えてしまいそうになる。
だけど駄目なんだ。
だって彼の優しさは、……
優しさは……
「深桜ちゃん?」
私だけに向けられたものだから。
「何処行くの」
「っ……」
いつの間にか部屋から出ていた乾先輩は家から出ようとしている私に向かって話しかける。
振り返ってはみたものの、私は彼の顔を見ることが出来なかった。
「こ、小牧の家に帰ろう、と思いまして……」
「……帰るの?」
妙な間が怖い。
私が頷くと彼はまだ視線が定まっていない瞳で私のことを見つめる。
そして、
「そっか、帰るのか」
彼が悲しそうに笑ったのを感じた。
普段の笑顔とギャップがありすぎるその控えめな笑顔は簡単に私の心を締め付ける。