そこには、君が


「え…、」






「本当ごめん」







徹平さんは突然手を止め、


開いた浴衣を無造作に閉じ、


私の上から体を退けた。


体の熱さから解放されないまま、


私はその場に寝転んだまま


天井を見つめる。


何が起こったのか分からず、


ただ呆然とするしかない。







「あーまじで最低、俺」






それはそれはまるで。


怒られた小学生のように。


背中を丸め、頭を垂らし。


泣いているかのようにも見れる、


その姿。







「明香ちゃん、あの…っ、」






何でこの人は、


こんなに可愛いの。






「明香って、呼んでください」






私は何故か後悔している


徹平さんを。


目の前から抱きしめた。







「明香…」





「うん、それでよし」





「怒って…ないの?」






「なんで怒る必要あるの?」







どこに怒る要素があった。


むしろ泣きたいくらい、


幸せで温かかったのに。









「初めてでした」





「ん?」





「あんなに幸せな時間」







肌が触れること。


長いキスをすること。


探るように手を繋いだこと。


腰に触れる手、とか。


少し漏れる、息遣いとか。


全部が全部、初めてだった。







「寝よっか」






「はい」







二人で一つの布団に寝転がる。


私の体は、まだ少し熱い。








「徹平さん、明日…」






「徹平」






「え?」







私に腕を差し出し、


頭を乗せさせてくれる。


少し抱き寄せながら、


そう言った。








「もう、さん付けはいいでしょ」






「…徹平、?」






「そう。それでよーし」







名前で呼ぶことに違和感。


ついでに敬語もやめろと言う。


そんなの、私には、


少し難関だ。


だけどなんだか距離が


縮まる気がして、


それも悪くないか、なんて。







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