そこにいた
「綾ちゃん?どう調子は。」
夜になると、武田先生が病室に入ってきた。
先日、私が武田先生にひどいことを言ってしまった。
だけど私は、自分の気持ちを言ったまでだし。
「大丈夫です。」
これ以上何か突っ込まれないように、素っ気なく答える。
けど、ベッド横の椅子にしっかりと座って、私の顔を覗き込む武田先生は、
「素直に言ってごらんよ。」
落ち着いた包み込むように話し始めた。
『…………。』
「綾ちゃん、移植をしたことを知った時は、辛かったね。
本来なら、君の同意のもとでの手術をすべきだったんだ。
でも、そうしてたら君の体がもたないところだった。
だから勝手に移植させてもらった。
どうして、移植は嫌がってたんだい?」
手術をするに至ったことを丁寧に説明する。
はぁ、やっぱり武田先生には敵わない。
昔から……。
結局いつも胸の内を話してしまう。
「・・・・・・お父さんが。
移植して死んじゃったから。
だから、移植が怖かった。
私は・・・・・・移植して、元気になったらいけないんです。」
少しの間の後に、
「綾ちゃん、それは違うよ。
綾ちゃんはすごくよく頑張った。
これまでの入院生活で何もできなかった分、これからの生活で取り戻すべきなんだよ。
お父さんの時とは違うんだよ。
綾ちゃんは、綾ちゃん。
だから、これからをしっかり生きるんだよ。」
私は武田先生の言葉を聞いて、自分は自分でいていいんだと思うと、我慢していた糸が切れたのか、涙が溢れ出た。
軽く私の頭を撫でる武田先生を見ながら、また涙がボロボロと流れていった。
すごく心が軽くなった気がした。
今までの気持ちが全て洗い流されたようだった。