♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~③
「いやあ、また馬鹿姉貴が、馬鹿な感想を漏らしているなあって。

まあ、奇術同好会ってやらに入っていらっしゃるから、評論家ぶりたい気持ちも、分からなくはないけれど」

「こら!だから毎回お姉ちゃんに向って、馬鹿って言うなってあれほど…」

「だってさ、あれが演技だって気づかないの?

でぶっちょが失敗ばかりって…

プロが、失敗なんてする訳ないじゃん!」

「ええ〜っ!あれが演技ですって⁉︎

ただの失敗でしょう?」

「まあ、いいさ。姉貴みたいな人がいる限り、この業界もまだまだ未来はあるってことだ。

じゃあ、先に風呂入るから。

あはは!」

そう言って笑いながら、達也はさっさとお風呂に向った。

「何よアイツ、ムカつくわね〜っ!

…とりあえず、決戦の期日まで、あと二日。明日中で答えを出さないと、バッドエンドになっちゃうわ。

…月山さんにしても、谷本さんにしても。

…よし!」

そう言うと春子は、ポケットからケータイを取り出した。

「…あっ、もしもし、私です、春子です。

礼士先輩、明日部室に持って来てもらえますか?

…何をって?もう!決まってるじゃあないですか。

例の本ですよ、もう、届いているんでしょう?」




「見た目は、僕達がもうすでに知ってしまっている内容だよ。

…ある部分を除いて、ね」

次の日の、一月二十四日、金曜日。授業が終わって急いで奇術同好会の部屋に向かった春子は、礼士から例の本、『平成奇術史』を受け取ると、ヴァンパイア礼士が指定したページ、32Pを読んでみた。

「…ええと。アメリカで催された、『ワールドマジックショー』に参加していた人物YとKのコンビは、日本でも有名な『悠々奇術団』の花形マジシャンコンビだった。

そしてこの大会で良い成績を収める事が、悠々奇術団の世界進出の足がかりになるものであり、オリンピックと同じく、当時の奇術熱の高かった日本国民の期待を背負った一世一代の見せ場だった為、絶対にミスは許されなかった。

しかし…その大会において、本番、Kの些細なミスによって、マジックは大失敗。

日本でも全国ネットで生放送が流れる中でのこの失態が、結果として悠々奇術団の衰退及び解散にまで追い込まれるほどの事件となった。

そしてそれが原因で、人物YとKはフリーになってからも人気が回復する事はなかった…

…平成元年の話だから、丁度私が生まれた頃の話みたいね」

「僕だって、まだ赤ん坊の頃の話さ」

「その事件から三年後、悠々奇術団に代わる新しい勢力、PG奇術団が現れ、更に5年後アメリカで再び催された、ワールドマジックショーの出場権利をかけた日本奇術大会に、PG奇術団は出場する事になった。

しかしここで、悠々奇術団の花形マジシャンコンビだった、YとKにふりかかった悪夢に似たような事が起こった…
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