2番目じゃなくて、2度目の恋
「遅くなってすみませんでした」
彼は遅刻したことを詫びると、テーブルに置かれていたお冷やを一気に飲み干した。
喉仏が上下に動いて、水が喉を通る様を見ているようだった。
空になったコップを置いて、彼がメニューを開く。
ザッと目を通したあとで私に確認をとってきた。
「なんか頼んでいいですか?昼飯まだなんで」
「あ、どうぞどうぞ」
「そっちは?」
「私はお昼食べてきましたから。コーヒーで十分です」
それを聞いて彼はウェイターを呼び止め、エビドリアとサラダがセットになったAランチと、私が要望したコーヒーを注文してくれた。
ふ~む。
店員への対応も悪くない。
注文もスムーズ。
特にこれといった問題点は見つけられなかった。
「気を遣って話すのもアレなんで、砕けてもいいですか」
テーブルに向かい合っている状態で、彼はそんな風に提案を持ちかけてきた。
緊張しているわけでもなさそうだし、むしろ落ち着いているようにも見える。
ただし、愛想はそんなに良くない。
まだニコリともしていない。
ひとまず彼の提案に乗ってみることにする。
「敬語じゃなくても、私は平気です」
「じゃあ、遠慮なく」
彼はAランチについてくるスープバーからコンソメスープを持ってきて、ズズっとカップをすすって飲んだ。
その彼の動作ひとつひとつをじっと見つめる私に、目だけを向けてくる。
「お見合い、どう断ろうか考えてるでしょ」
「えっ?」
考えてることを見破られた。
単なる偶然かもしれないけれど、確かに私はこの時、この男にお見合いは無かったことにしようと最終的に言うつもりでいた。
そこへ持っていくまでの過程をどうすべきか考えていた。
否定するのも忘れて、私は彼の少し幅の狭い二重の目を見つめた。
彼も私から目を逸らすことなく、ここで小さく微笑んだ。
その微笑みは、柔らかくも優しくもない。
どこか冷めたような微笑みだった。