呪われた姫君と怪盗
春長(た)ける頃に

ストーカー男には気をつけて



「で。何故私がお前とここで夕食を共にしないといけないんだ。」

ここは、神戸の某高級イタリア料理店。
客は殆どいない。店員もいるが、皆厨房にこもっていて、なかなか出てこない。室内にはクラッシック音楽のピアノの演奏が流れていて、静かだ。
というのは、私の目の前にいる男がこの店を私のために貸し切ったと思われる。

「それはねぇ、アリスちゃんが可愛いすぎて放っておいたら、狼さん達が沢山集まってくるからだよ~。
それに…」
私に向かってニコニコと笑う男。
その笑顔が胡散臭くて寒気がする。
「お前の使っている日本語の意味がイマイチ分からないな。ガーネット。」

「おいおい。アリスちゃん、ここで、僕のことそんな風に呼んだら分かってるよね…?ここでアリスちゃんの秘密言っちゃいますよぉ~。」
とにんまりする彼。

「別に言っても構わん。どうせ、ここの店舗や店員全部お前が買収してしまってるだろうだからな。」
「それはそうだけどさぁ…。そういう問題じゃないっ!もう少しアリスちゃんには自覚が必要ですっ!」

「自分の現状はしかと認識してるぞ。なんせ、目の前に大罪人がいるのだからな。探偵として見過ごせない。」

「僕のことじゃなくてアリスちゃん自身のことだよ~。ってそれ言うなよ!」
とぷりぷり怒り出す彼。
ほっぺをふくっくら膨らませて、まるで水族館で漂うハコフグのよう…。

「誰がハコフグだって…アリスちゃん?…ふふふっ。」
あ、聞こえてたんだ。まずいな…。

「そんなこというアリスちゃんには僕のことをちゃんと名前で呼んでもらいますっ!いつもお前お前って二人称呼びするから飽きて来たの。」

「赤城秀哉。」
「だぁ~~~っ!!」

「うっ。何だよ、いきなり叫んでびっくりしたじゃないか。」
赤城秀哉が叫ぶと同時にナイフを落としてしまった私。
「そうじゃないんだってば。フルネームのことじゃなくて、名前で呼んでって言ったのにィ…しくしく。」
みなさん、気をつけてください。
これは嘘泣きです。
騙されてはいけません。

「秀哉って呼んで?」
とびっきりの笑顔で私に微笑む赤城秀哉さん。とっても怖いです。まるで閻魔大王様が降臨したようかの如く。

「断固却下だ。」
嫌な予感しかしない。
「何だよ、アリスちゃん僕にとっても冷たいじゃないか。僕悲し過ぎて死にそう。」

「そんなの知らんっ!元から私は優しい人間じゃない。もう帰るっ!」
と、私が席を立つと、

「だぁ~~~!!それは絶対やめてぇ〜〜!!帰らないでぇ~~!!」
焦り出し、私を引き止めようとする赤城。

「アリスちゃんの秘密は絶対言わないっても約束するから…ねっ、!」
彼は半泣きである。
「わかった。…っわかったから、もう泣くな。大の大人が目の前で泣かれるなんてたまったもんじゃないしな。取り敢えず泣き止め。」
と言って、彼にハンカチを差し出すと、

「うん、もう泣かない。…アリスちゃんを困らせたら後が怖いしな。
あ、アリスちゃんハンカチありがと。」
これは永久保存しないとな、と言って、
いつものにこにこ顔に戻ったのを確認すると、

「うむ。良し。ところで、本題は何だ、秀哉。」

「それは、ですねぇ…」
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