③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
 小さなトキメキを隠しながら息を潜めるさ中にも、外の切ない営みは、ますます感窮まってゆく。

「ああっ、社長…」
「原口くん、綺麗だ」

 …………。

 メッチャ気まずい!
 燈子は気を紛らせるため、大神にとある提案をした。
 (課長、大神課長)
 (ん、んぁ?…どど、どうひた、赤野)
 
 妙に上擦った声で、いつになく狼狽える彼。

 (シリトリしません?シリトリ、ね、やりましょうよ、ね?ね?)
 (ふ…へ?あ、あ、いいね。
 シリとり。やろうじゃないか)

 燈子のアホな提案を、意外にも彼は二つ返事で受け入れた。
 やはり彼も、この気まずい状況に耐えかねているのだと、燈子はそう考えた。

 (えーと、じゃあいきますよ。“シリトリ!”)
 (り、“リップ”)
 (リップぅ~?)

 実のところ__
 大神は、燈子が考える以上に切実な状況だった。

 何故か。
 実は彼、1年と半年ほど前から燈子にうっかり片想いしてしまっているのだ。
 彼が全く表に出さないから、燈子は知るよしもないんだが…

_と、止まるんだ心臓!
 そんなに大きく鳴ったら、彼女に感付かれるだろうがよ。ってか、このままだと俺のセンサーは、もろ反応してしまう…
まんま、ヘンタイじゃねえかっ_

 彼の思惑にはお構い無く、言葉のゲームは進められていった。

(え~と、プ…“プログラム!”)
(ム…む~、む、ムラムラする…)

(はあぁ?)
(あ、いや、ム、ムラだ、“村”!)

(ああ、村ね?“ラ”だから…そうだ、『ラッコ!』)

(コ…コ……子作り)
(え…課長。今何て…)

(あ、い、いや!違う。
“コドモ” だ “子供”)
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