泣き虫とヒーロー ~約束の四つ葉のクローバー~


シーンと静まり返った部屋。

柄にもなくドキドキしながら、

信助さんと佐和子さんの正面に座ると、

ゆっくりと口を開い佐和子さん。

「実は、信助もアメリカに転勤なの。

それは、奈緒ちゃんのお父さんの話と同じ時に決まってたわ。」

という驚きの言葉に頭が真っ白になる。

「だけどね、
郁人の事があって、

今、郁人記憶ないでしょ?

だからね、郁人の記憶がアメリカへ行く前までに戻らなかったら、一緒に連れて行こうと思うの。」

佐和子さんの申し訳なさそうな声に、

ひどく痛み出した胸。

うそでしょ。


だけど、なら、

「あの、じゃあ、

記憶がなくなる前の郁人はなんて言ってたんですか?」

震える言葉。

こんがらがる頭を整理してやっと言えた言葉がそれだった。

佐和子さんは唇を噛み締めて、

俯くと、

「記憶を失う前の郁人は…

ここに残るって言ってたわ。

奈緒の隣にいたいって、

だけど…

今の郁人の状況じゃ難しいの。」


ごめんね、

奈緒ちゃん。




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