泣き虫とヒーロー ~約束の四つ葉のクローバー~


リビングに入ると、

茶碗を新聞で包んでいる佐和子さん。

私は佐和子さんの前に立って

頭を下げた。

「…ごめんなさい、佐和子さん。

私は、私は、

郁人と離れたくないです。

お願いです。

郁人をアメリカに連れて行かないでください。」

昨日言えなかったこと…

泣くのをこらえるけど、どうしても震える声を抑えられない。

もしも、このまま郁人がアメリカに行くことになったら…

怖くて怖くて涙が出そうになる。

ずっと無言の空気に胸が痛む。

だけど、

「奈緒ちゃん、
顔を上げて。」

佐和子さんの声に無意識に震える肩。

ゆっくりと顔を上げると、

佐和子さんは、

笑顔で、

「やっと、やっと、本音言ってくれたね。
ありがとね、奈緒ちゃん。

こんなに、郁人を想ってくれて、

愛してくれて、ありがとう。」

ぼろぼろ涙を流す佐和子さんに私まで涙が止まらない。

こんなこと言ってもらえると思わなかった。


「きっと、郁人も記憶が戻ったのよね?」

震える佐和子さんの言葉に

郁人は、

「…あぁ、

ごめん、迷惑かけた。」

ぶっきらぼうだけど、佐和子さんを見つめながら頭を、軽く下げた郁人。

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