第二秘書は恋に盲目
「すっげーそこに引っ掛んね。キャリア志向だってのは知ってるけど、なんでそこまでこだわるの?何か理由あんの?」

「…母親だよ」

「母親?」

千歳は言いにくそうにしながらも、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいった。

「そう、私の産みの親。
もう、10年以上前になるけど、母親は他に男の人が出来たって言って家を出て行ったの。
そのとき私に言ったのが、女は賢く生きなきゃ駄目よ。男に上手く媚びて、機嫌をとって養わせる。それが幸せな生き方よ、だったの。
あの人らしいと言えばそうだけど、私は絶対そうはなりたくないって思った。自分で働いて自分で生活するって。男の人に頼りきりっていうのは、何としてでも避けたい道なの。だから仕事で地位を確立しないとって…」

掌をぎゅっと握って、明らかな負の感情をまとっている。いつもにこにこしてる千歳がこんな思いを抱えていたなんて、正直驚いた。

千歳の母親がどんな女なのかもなんとなくわかった。ろくでもない奴だ。
そんな奴に、今の千歳が振り回されるなんて馬鹿らしい。

「なるほどね。それで秘書まで上り詰めたんだ。

そこまでなったんだよ。もう、千歳と千歳の母親は同じようにはならない。例え千歳が兄貴を頼っても、今の千歳の軸がぶれることはないって。
それに、全部を委ねるような頼り方をするような奴、兄貴は心惹かれないだろうし。

…いいんじゃねーの、素直になって」

はじめは、兄貴との仲を茶化そうと思ってたのに。慰めて俺の株を上げようっていう計画だったのに。いつの間にか応援に回ってしまっていた…。

こんなはずじゃなかったんだけど。
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