光のワタシと影の私

記者会見、後日

 「でーきたー!」
 パソコンとどれだけの間睨めっこしていたことだろうか、ようやく麗華とユニットを組んで歌える新曲を仕上げることが出来た。
 現在の時刻は、夜中の2時。
 普通の高校生であればとっくに夢の中に浸っているのかもしれないが、ワタシは違う。ワタシも学生という本業はあるものの歌手としても活動を疎かに出来る立場ではない。つい時間があるとパソコンと睨めっこしてしまうものだから時間がどんどん過ぎていってしまうことにも気がつかないのだ。
 新たに仕上げることが出来た曲は、ユニット独特のハーモニーを充分に活かすことが出来る曲調になっている。
 ピアノとヴァイオリンの伴奏がメインとなっており、そこにもちろんドラムの音やギターの音源も取り入れたモノとなっている。
 うん、我ながら良い仕上がりだ。
 ただ、心配があるとすれば麗華の私生活について、だ。
 麗華は今も尚虐めに遭っている。
 先日、記者会見を開いたことによって麗華の顔も雑誌に掲載されるようになるだろう。ワタシとユニットを組んだ一般人ということで余計に注目されるようになるかもしれない。その重圧に彼女は耐えられるだろうか?
 一応、何か彼女の周辺で物騒なことが起きるようなことがあればすぐワタシに連絡するように告げてはいるものの彼女は少々一人で抱え込んでしまうたちがあるらしく自分の弱味を他人に打ち明けてくれることが少ない。
 ワタシと友人になってくれてもどこか壁を感じることがあるのだ。
 今、ワタシがあれこれ心配してしまってもどうにも変わらないことなのかもしれないが、それでも大切なパートナーとしては気がかりになってしまう。
 そして次の日の朝、ワタシが考えていた通りに世間は賑わいをみせていた。
 ワタシだって昼間は学校に行かなければならないし、授業も極力出席するように心がけている。
 急いで朝食を済まし、いざ学校に向かおうとすると自宅近くから記者とカメラマンが一気に押し寄せてきて朝っぱらからちょっとした騒動になってしまった。
 「REIさん、一般人とユニットを組んだことに後悔はありませんか?!」
 「その一般人とはどのような人物なのですか?!」
 「新曲発表はいつになりますか?!」
 …正直、うざい。
 なんで朝からこんなパパラッチに遭遇しなければならないんだろうか。
 ふとそんなことを考えていると、ワタシがこんな目に遭っているとすればきっと麗華の自宅付近にもパパラッチが潜んでいるのかもしれない。もしくは既に質問責めに遭ってしまっているだろう。
 どうにも麗華は奥手なところがあるからパパラッチの言いなりになってしまっているのかもしれない。そこが麗華の良いところでもあるのかもしれないが、芸能界慣れしていない麗華のことだ、わけも分からずに逃げ回っているかおろおろしていることだろう。
 「…すみません、これから学校に行かないといけないので、また後日にしてもらえますか?」
 いちいち質問に応えていたらキリがない、そして学校に遅刻してしまうと察したワタシは上手くパパラッチから逃げ出すことが出来た。
 こんな上手いこと、麗華には無理なことだろう。きっと丁寧に礼儀正しく質疑応答を繰り返しているのかもしれない。
 「…可哀想に…」
 パパラッチから逃れ、学校に向かう途中、一人歩いていたときにぼそっと呟きを洩らしながら麗華の立場を考えてみるとそう思わずにはいられなかった。
 学校に着き、当然ワタシが歌手活動をおこなっている友人たちには教室に着いた途端に囲まれて昨日の記者会見についてあれこれと詮索をされてしまった。
 「あの横にいた子がユニット組む子なんだよね?!」
 「ずっと黙ってたみたいだけど、緊張してたのかな~?」
 「でも、ちょっと暗い感じがしたねー…」
 「新曲はあの子と歌うんでしょ?楽しみだな~!」
 同級生にワタシが歌手活動をしていることがバレてしまったのはいつ頃だっただろうか。ライブハウスに音楽を楽しみにやってきている同級生らしき生徒はいたものの実際に声を掛けてもらったことは無かったし、ワタシが事務所所属の歌手としてデビューしてから周りに知れ渡るようになったのかもしれない。
 歌手としてより多くの人たちに音楽を聴いてもらえるということはとても嬉しいことだ。そして、一人でも多くのファンが集まってくれれば事務所側としても嬉しいかぎりだ。
 「うん、ちょっとあの子も緊張してたみたいでね。でも、ワタシだって緊張してたんだよ?!」
 緊張していたのは麗華だけではないということを説明しながらあははと笑い声が教室中に広まっていった。
 ワタシの友達は、歌手活動をしているワタシのことを特別扱いしていることはなく、単なる友人の一人として接してくれるからリラックス出来る高校生活を送ることが出来ている。逆に歌手だからといって特別扱いされでもしたらワタシは登校拒否をしてしまっていたかもしれない。
 「こらこらー!みんな席に着けー!朝のHR始めるよー!」
 担任教師が教室に入ってくるとワタシに集まっていた生徒たちは各々の席に座り、ワタシも自分の席に着くと他の生徒となんら変わりのない学生生活を今日も始めていった。
 …麗華は、大丈夫だろうか?
 やっぱり記者会見なんて開かないほうが良かっただろうか?
 先日は、多くの記者もカメラマンも来ていたから多くの雑誌にワタシたちに関しての記事が掲載されていることだろう。個人的には雑誌には興味が無く、どんなにインタビューを受けたとしてもその雑誌に目を通すようなことはしてこなかった。
 ぼーっとしている間にHRが終わり1限目の授業の準備を整えながら携帯を取り出した。
 『朝は大丈夫だった?それから学校のほうも大丈夫?虐めとかに遭ってない?何かあったらすぐに教えてね?』
 まるで妹のことを心配する姉のような気持ちになりながらそっと携帯を制服のポケットの中に入れた。
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