光のワタシと影の私

バレた…?

 記者会見を終えた翌日に学校に行ったらやけにあちらこちらから痛いほどの視線を浴びるようになった。
 きっと、先日行われた記者会見に私の姿があったからかもしれない。
 もちろんREIに言われて人前に出ても恥ずかしくないように薄いものだったけれど化粧をREI本人にやってもらったこともあって普段の私と比べてみればとんでもない姿を鏡越しに見ることになったことには驚きものだったものの、やはり多くの取材、メディア関係者が来ていたものだから私の顔を写していたメディアも少なからずあったことだろう。
 普段はどんなに地味に過ごしていたとしても雰囲気などでバレてしまうことはある。
 たぶん、あちこちから聞こえてくる言葉の中にはなんであの子が?といった内容のものもあることだろう。
 「あんな子、オーディションにいなかったはずなのに…」
 「意外と歌が上手いとか?」
 周りが驚くのも無理は無い。
 私、自らが驚いていたことだし、REIからユニットを組んで欲しいとスカウトされたときだって他の誰よりも私が一番驚いた。
 だけど、やっぱり私のことを気に食わないという子たちはあちらこちらにいるもので相変わらず私に向けられる嫌な視線というものは変わらなかった。
 教室に入り、自分の席に向かえば一応気を遣ってくれたのかは分からなかったが水性マジックで書かれた悪戯書きが机上に広がっていた。
 「あんたさー、オーディションに受かったからって良い気になってんじゃないわよ」
 「それで、ちょっとは反省したら?あんたなんか世間に出ても何も出来ないんだから」
 「せいぜいREIの足、引っ張ったりするんじゃないわよ!」
 濡らしてきたハンカチで念入りに机上の落書きを消すとちょうどタイミング良く朝のHRが始まり担任の教師が入ってくると私に視線を向けてからニカッと幼い笑みを浮かべて笑っていた。
 「いやぁ~、まさかこのクラスからアイドルが誕生するなんてなぁ~。まぁ、無理のないように頑張れよ?何事も身体が一番だからな」
 「は、はい…気をつけます…」
 いつも、そうだ。
 他人の言うことにまともに返事をすることが出来なくてしどろもどろになってしまう。人見知りとはちょっと違うけれど、どうしても即返事をするということが苦手なのだ。それをREIに相談してみるとそれも麗華の良さの一つだから、ということで無理に変える必要など無いようだがこれからは余計に人前に立つことも多くなってくるだろうし、知らない人ともきちんと挨拶を出来るようになりたいとは考えている。
 どうやら机の中に入っていた教科書やノートの類に悪戯されていることは無かったために安心しながら本日の授業は安心して受けることが出来た。
 親は私が人気絶頂中のREIとユニットを組んだことを知っているから応援してくれてはいるけれどそれでも遅くならないうちには帰宅するように厳しく告げられている。
 まだ夜になるのは早いし、事務所に寄ってボイストレーニングでも始めてみようか…。
 ボイストレーニングをおこなえる部屋はいくつも存在しており、ピアノやギターなども置かれていることからバンド練習をしている人たちや養成所に通っているレッスン生の姿も少なくない。
 本格的なボイストレーニングは出来なくてもピアノを使って音程を確かめるぐらいは自分一人だけでも出来るだろう。
 いつまでも学校に残っていたらまたどんな嫌味を言われるか分かったものではないからそうそうに通学鞄を手に取ると事務所に小走りに向かっていった。
 事務所に向かうことは姉にメールを通じて連絡していたし、もちろん空いているボイストレーニングに使えそうな部屋のチェックもしているということだからそこを使わせてもらおう。
 事務所まであと少し。
 私もこの事務所所属になったということでほとんど顔パスで受付の女性に怪訝な顔をされることなくすんなりと案内されてしまうとエレベーターに乗ってボイストレーニングが出来る階に上がっていくと事前に姉から伝えられていた空いている部屋のドアノブに手を掛けたところで室内から人の声が聞こえてきた。
 防音がしっかりとされているにも関わらずほんの少しドアを開けるだけで人声が聞こえてくるなんてよほど大きな声で話し込んでいるのだろうか?
 それにしてもなにやら険悪なムードが漂ってくるのが感じた。
 「!…麗華…そっか、今日はここの部屋を使うんだね。ごめんごめん、邪魔しちゃったね」
 「ううん。大丈夫だけど…えっと、そちらは…?」
 「…この事務所の社長さん。気さくな人で、社長さんって呼ばれることは苦手みたいだけど、一応上の立場の人だし、しっかりしないといけないからね」
 「初めまして、鳴宮麗華です」
 「あぁ、キミが鳴宮くんの妹さんか…。ふむ…単刀直入に言うが、キミに芸能界は無理だろう。芸能界は楽しい華ばかりが存在している場所ではないんだよ。なによりもキミのことを思って言っていることなんだ。今ならまだ間に合う。REI、またオーディションを改めて開催してみないか?」
 「社長!だから、ワタシ!麗華じゃないと駄目なんです!それは何度も言ったじゃないですか!それに麗華の歌声は社長も聴いたでしょう?!こう…上手く言えませんが、胸が熱くなるような…そんな歌声が麗華に持っているんです!麗華で駄目ならばワタシはこれから先も一人で歌っていきます!」
 REIは、確かにデビューする前からライブハウスなどで歌を披露していた。だからこそ人前に出ることも平気だし、芸能界慣れをしていてもおかしくはない。
 でも、私の場合はどうだろう…?
 普段は地味、一時期は虐めの問題に耐え切れなくて学校に行くことも嫌になってしまうこともあった。そんなときにREIの歌に出会ったのだ。
 REIのファンの一人。
 それが私という人間でもある。
 REIのファンだという人は世の中にどこにでもいるだろう。そのなかのうちの一人なのだ。たまたま出会うチャンスがあったというだけで私の歌声に興味を持ってくれたことも奇跡に近いのだ。
 今日、学校に行っても誰一人として応援してくれるような人は周りにいなかった。先生の応援はほとんどお世辞といっても良いものかもしれない。本気で応援してくれるような人はいないだろう。
 私の存在がいることでREIの活動に迷惑が掛かってしまうなら…。
 でも、それでも私の出来る範囲のなかでREIを支えてあげたいと思ったのだ。
 「…芸能界が厳しい世界ということは覚悟しているつもりです。実際、私が選ばれたことでインターネット上では非情にたくさんのネットユーザーたちからは叩かれていましたし、オーディションをやり直したら?という書き込みも見つけました。それでも…っ…私はREIの隣りにいたいんです」
 初めて顔を合わせ、しかも上の立場である事務所の社長さんに向かってこんなこと昔の私だったら言えるはずも無かっただろうが思い切って勇気を振り絞って告げてみた。
 社長は、暫く黙って私の言葉に聞き耳を立てていたものの小さく頷き、柔和な笑みを浮かべてみせると私の肩にぽんと片手を置いてきた。
 「そこまでの覚悟を持っているなら、頑張りなさい。この事務所にいる全ての人間はキミの味方だからね?困っていることがあればいつでも相談してきて構わないよ」
 「!あ、ありがとうございます!」
 どうやら私の本当の意思とか覚悟といったものをどれほど持っているのかどうか社長は知りたがったのかもしれない。
 だからこそ、わざと厳しい言い方をして私の反応を伺っていたのだろう。
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