愛の歌、あるいは僕だけの星
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遠くで、終業の鐘が聞こえた。
ゆっくりと給水塔の梯子を降りて、扉を抜ける。銀也のいる教室をのぞけば、既にホームルームも終わっていてクラスメイトたちは雑談をしたり部活へ行く準備をしたりと、各々の時間を過ごしていた。
けれど、その中に銀也の姿はない。
銀也の席を見れば、まだ鞄が残っているから帰ってはいないはずだ。ひっきりなしに告白を受ける彼のことだ、もしかしたら女の子から呼び出しでも受けているのかもしれない。
先に帰っていようかな、そう思ったけれど、自分に会いに行くだなんて言い出した銀也の言葉に踏みとどまる。どこまで本気かなんて、分からないけれど。そっと俯いた時だった。
中庭を挟んだ真向かいにある音楽室から、繊細なピアノの音色が風に乗り教室まで届くのにハッとする。足早に廊下を歩き、音楽室へ踏み入れれば、そこには親友であり、クラス委員長をつとめる神谷レンゲがいた。そして、その横には三原が立ち、レンゲが演奏をするのをじっと見ている。
「……神谷さん、ピアノ上手なんだね」
「どうしたの、何か用?」
「邪魔してごめんなさい」
頭を下げて、音楽室の窓をそっと開けて外の様子を伺っている。何を見ているんだろう、不思議に思って夏も横から覗く。目に飛び込んできた光景に思わず目を大きく見開いた。