この恋は、風邪みたいなものでして。


「だが、名前を決める前に、妻の身体に蕁麻疹が浮かび、気管が腫れあがり呼吸困難で命が危なくなった。動物アレルギーと診断され、その子猫がうちの子であったのは三日ぐらいだったかな」

「嘘……」


「丁度、その日、息子もピアノの発表会で、――その日にピアノの講師の紹介で子猫を譲る先が決まっていた」

完成したと思っていたジクソーパズルのピースが、実はまだまだ私の見えない部分に嵌められていく。


シャングリラの支配人がヤス君の元飼い主さんの父親。
ということは?


ギギギと、錆付いた扉の様に私がゆっくり首を捻った先には――颯真さん。


「懐かしいですね。あの時のお嬢さんですよ」
「うそー! きゃああああ」

暴れようとした私の肩に手を置くと、颯真さんは支配人を見る。

「父さんには歳が少し離れているとは言いましたが、彼女なら問題ないでしょう」
「勿論。子猫の為に一週間も泣き続ける愛情溢れる子が、うちの娘になるとは飛び跳ねたいぐらい嬉しいことだ」

息子。

娘。

つまり、――つまり、颯真さんはこの『シャングリラ』の支配人の息子ってことは、


「『オーベルジュ』って颯真さんが創立させたんですか!?」


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