オークション
ドクンドクンと心臓は高鳴り、背中に汗をかき始める。


大丈夫。


この手になってからも普通に生活を続けてきたから、ある程度の持ち物に中田優志さんの指紋が付いている。


だからどんな持ち物を調べられても、今のあたしの指紋と一致するはずだ。


自分自身にそう言い聞かせる。


しかし、そんなにうまく行くだろうか?


中田優志さんの指紋になってから一度も触れていない私物だって沢山ある。


万が一、そう言ったものを提出して検証されれば、あたしが北川藍那であるという証明は更に難しくなってしまう。


気が付けば、あたしはゆっくりと後ずさりをしていた。


ここから逃げなきゃ。


ここから逃げなきゃ。


そんな気持ちが胸の奥からつきあがって来る。


そして……お母さんと先生があたしから視線を外した瞬間、ドアへ向けて走りだしていた。


一瞬足がもつれてこけそうになったが、どうにか体制を戻して走る。


後ろから複数の人間の声が追ってきて、あたしはそれから逃れるように走った。
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