オークション
逃げ場はない
「あら、可愛いお客さんね」


お店に入ってすぐ、店員さんのそんな声がしてあたしはの視界はジワリと滲んだ。


優しい言葉に優しい笑顔。


今のあたしにはそれがスッと心の中にしみこんでいく。


「あの……あたし……」


「その声は藍那ちゃん?」


笑顔を崩さないまま、店員さんがそう言った。


あたしは驚いて目を丸くする。


「わかるんですか!?」


「声をきけばわかるわよ。それに、この前のオークションで《ミス日本の顔》を落札した事も知ってるしね」


当然のようにそう言う店員さんにあたしの頬に涙が流れた。


あたしをあたしだとすぐに理解してくれる人がいる。


たったそれだけの事が嬉しすぎて。
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