Butterfly
挨拶さえ、ろくに言葉が出なかった。

なんと言えばいいのかわからずに、私はそう呟いていた。

咲良は涙を拭きながら、ふるふる首を横に振る。

「私は自分のことだから・・・でも、千穂ちゃんまで巻き込んで・・・」

咲良が再び「ごめんね」と言って涙をポロポロ流し始めた。  

そんな咲良の姿を見ることは、私もとてもつらかった。

「うん・・・びっくりしたけど、もう取り調べも終わったし、私は大丈夫だから。

咲良がかなりまいってるって話を聞いて・・・ごはんとか、ちゃんと食べてるの?」

「・・・少しは」

「そっか・・・」

やはり、精神的にかなり追い詰められているのだろう。

カーディガンからのぞく華奢な手首が、さらに細くなった気がした。


(大丈夫かな・・・)


私が何かを言うことで、さらに咲良を追いこむ可能性もある。

彼女の心が、今以上に暗闇に沈んでいったらどうしよう。

疲れ切っている咲良を前に、ものすごく重要な役割をかって出てしまったことに気がついて、私の胸に不安が溢れた。


(だけど、言わなくちゃ。ずっとこのままでいいはずはないんだ・・・)


「咲良、あのね」
 
声をかけると、顔を上げた咲良と、私の目と目がバチリと合った。

泣きはらした瞳に再び心がぐらついたけど、決意が鈍らないようすぐに次の言葉をつないだ。
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