Butterfly
そう心に決意したとき、右横から、人が近づく気配を感じた。

視界に入った黒い革靴。ゆっくりと、その人影が立ち止まる。

私はふっと斜め上を向き、その人物の顔を見た。

「お待たせしました。初めまして。シンです」


(えっ・・・)


現れた人物に、私は目を疑った。


(まさか・・・)


胸の中に、ざわざわとイヤな気持ちが甦る。

目を見開いて固まる私を、「シン」は窺うような顔で見た。

「・・・千穂?」

何かに気づいた様子の「シン」は、私の名前を口にした。

私は「シン」があの人であると、確信せざるを得なかった。

「・・・ご、ごめんなさい!ちょっと、トイレにっ・・・!」

咄嗟に、私は席を立ちあがる。


(まさか、まさか・・・)


ぐんと頭に血が上り、壊れてしまいそうなほど脳内が一気に混乱をした。

初めて来たお店の中の、トイレの場所なんてわかるはずはないけれど。

とにかくあの場から離れたい、私はその一心で、逃げ場を求めるように店の中を彷徨った。

「・・・初めて来たんでしょう。ご案内しますよ」

「!」

後ろから、腕をきゅっとつかまれた。

振り向いた私と目が合った人物は、今、まさに逃げ出してきた相手である、「シン」・・・可月森次郎(かつきしんじろう)さんだった。





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