Butterfly
「オレ、後悔してるんだよ。あの時、おまえを抱かなかったこと」

息がかかる距離で、可月さんが私に囁く。

私は、恐怖とか嫌悪とか、自分が不快に感じる五感の全てで、可月さんを拒絶していた。

「あれから誰かと寝たりした?今はすげえ興味あるんだよね。やってる途中、色とか変わりそうだろ、ここ」

そう言うと、可月さんは私の痣を覗くように、ワンピースの胸元を人差し指で引っ張った。

「!」

「ホストクラブに来るなんて・・・相手にしてくれる男でも探してた?今ならいいよ。オレがしてやる」

「・・・っ!!やっ・・・!」

泣きそうになりながら、私はそこから逃げようと、可月さんの身体を力いっぱい腕で押した。

・・・その時だった。

「はい、そのまま。動かないで」

後ろから、落ち着いた女の人の声がした。

はっとして声の方向を振り向くと、壁の後ろから、30歳前後の女性がゆっくり姿を現した。

銀縁眼鏡に、キリリとしたショートカット。黒いパンツスーツをさらりと着こなしている。

手に掲げているのは、正真正銘の警察手帳だ。


(警察のひと・・・?)

 
わけがわからず、私は何度もまばたきをした。

女性警官は静かに足を踏み出して、可月さんの真横に立った。

「可月森次郎。違法薬物所持の疑いで逮捕します」
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