Butterfly
「違うっていうんならちゃんと見せてよ。なにもないなら見せられるでしょう」
 

(嫌だ・・・どうしたらいいの)


誰にももう、胸の痣を見せたくなかった。

蒼佑さんにはもちろん、他の誰にも・・・見せて、そしてその反応で、自分が傷つきたくはなかった。


(それに、津島さんに見せるということは・・・きっと、彼女だけじゃない)


捜査情報として、蒼佑さんにも、そしてこの事件に関わるたくさんの刑事さんたちにも、痣の存在が知られることになるだろう。


(・・・嫌・・・絶対に・・・)


『気持ち悪い』

『ビョーキだ』


子どもの頃の、辛い記憶が甦る。

避けられた行為が、からかう声が、当時のままに頭の中を支配した。


(可月さんの、あの顔も・・・)


嫌悪に満ちた彼の顔。

思い出す度、私を何度も苦しめる。


(やっぱり、嫌だよ・・・。絶対に・・・)


「見せられません・・・」

絞り出すように声を出すと、津島さんは「ふーん」と言って、訝しそうに目を細め、眼鏡の縁を持ち上げた。

「ずいぶん頑なね」
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