Butterfly
「悪かったな、遅くなって」

カツンと靴を鳴らしながら、市谷さんは津島さんの真横に立った。

そして、深紅のネクタイを少しだけ緩めると、無表情のままに呟いた。

「話、途中から聞こえたけど。いいよ、二人だけにして」

「えっ・・・。なに言ってるんですか」

「オレも彼女のことは多少知ってる。二人にしても大丈夫だ」

「いえ、でも・・・岡本くん、彼女の恋人なんですよ?」

「そんなのわかってる。岡本だって、今の状況がわからないほど馬鹿じゃないだろ。何かあったらオレが責任を取る」

「そんな・・・でも」

「それに。こいつはめんどくさいだろ。後で泣きつかれたりしたら、そっちの方が面倒だ」

市谷さんが、蒼佑さんを顎で示した。

淡々とした口調だけれど、有無を言わせない力があった。

「・・・わかりました」

津島さんが、息を吐いて渋々席を立ち上がる。

「佐渡、おまえも」

「・・・はい」

不服そうに、その場に佇んでいた佐渡さんにも声をかけると、市谷さんは二人を連れて部屋の外へと出て行った。

「・・・あ、ありがとうございます・・・!」

蒼佑さんは、そんな市谷さんの後ろ姿に、深く頭を下げていた。


・・・バタン。


ドアが閉まる。

部屋の中は、蒼佑さんと二人きり。

静まり返った空間の中、先ほどまで津島さんが座っていた席に、蒼佑さんが腰を下ろした。

「・・・」

「・・・」


(どうしよう・・・)


緊張する。

苦しげで、怒っているような様子の彼に、私は何も言えなくて、身体をぎゅっと縮めた。
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