櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ








「すごい…!どうなってるの、あれ…!!」


王族専用の観覧席で、ルトはガラス窓に張り付き、興奮気味にそう言った。




先ほどの試合で違反行為をしたヴェステ王国のアラクラン王と騎士のルトは、罰則として今後二十年間の舞闘会出場禁止と即刻退場が命じられた。


しかし


「まあ、この試合まで観戦してからでいいでしょう」


と、シルベスターが許可を出し、特殊部隊の監視下の元、観覧席から観戦していたのである。




「な、なんで…足切ったのに、切れてない…!」


足だけではない。


ネロとの戦いが続く中、アポロは常闇の魔力にあてられた自身の四肢を容赦なく切り落としていく。


まるで使い捨ての手足だと言わんばかりに。


切り落とされたそれらは炎に包まれ灰となって消えていく。


ルトにとって、初めて彼の戦いを見るものにとって、目の前に映る光景はただただ異常だった。




「知りたいかい?」


「…!!」


言葉を失い、試合から目をそらせずにいるルトに、特殊部隊のオーリングが声を掛ける。


「アポロはね、一言で言えば自己再生魔法を極限にまで究めた男なんだよ。
君の左半身がネロの蹴りを受けたことで魔力を使えなくなったのと同じように、常闇の魔力に一度触れたら、その魔法使いは一生魔力が使えなくなる。おまけに侵食作用もあって、全身にまで広がっていく。我々にとっては『毒』だ。少量でも死にいたら占める猛毒。
だからアポロはその毒が回りきる前に、侵された部分を切り落とす。そして元通りに身体を再生する。それがあいつの見つけたネロとの闘い方」


「切り落として、再生…!そんな無茶苦茶な…!!」


「そ、本当に無茶苦茶さ。ほかのどんなに強い魔法使いでもきっと真似しない。ただの傷を治す治癒術ならまだしも肉体を一から作り直すのは相当の魔力を要する。それが例え手足の一二本でも。元通りにできる保証もないしすべては術者本人の力量によるんだけど、あいつはその技術を極めてみせた。それを実現させたのは俺達特殊部隊の中にあって誰もが認める『天性の才能』と『底無しの魔力』だ」



ネロの相棒、アポロ・ヘリオダス


2人が出会ったのは魔法学校に入学してから。


当初から特殊部隊を目標に血反吐を吐くような努力を続けていたネロに対し、彼の友人で後の相棒となるアポロは、『努力』の『ど』の字も知らない男だった。


魔法を使うための練習なんて一度もしたことない、勉強もやったことはない、授業だって真面目に受けない、自分が楽しいと思えることにしか興味が無い。


それでも彼は、『天才』だった。


力には恵まれど凡人だったネロが数年かかってようやく出来ることを、彼は数秒でやってのける。


特殊部隊入隊もそうだ。


『ネロが入るなら俺も入ろーかな!』


動機はたしかその程度。


だが彼は、当時の特殊部隊の一人を見事追い詰め、その権利を勝ち得た。


同じくジンノに『天才』と言わしめるルミアでさえ幼い頃から訓練を積み重ねてきて今がある。


故に天才か否かという点において、アポロはルミア以上の『天才』であると言えるだろう。


< 206 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop