櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





 ◆




 目の前で、また、大切な人があの人の手で穢されていく。



 母を失った時の事が何度もよみがえる。



 自分を守るために盾になって殺された母



 その姿とルミアの姿が、重なった。




(...また、俺は何もせずに見ているだけなのか...また...!!)




 悔しさのあまりギリリと強く噛んだ唇から血がしたたり落ちる。



 動きたいのに手や足は爆発の影響で骨が折れたのかピクリと動かない。



 ただ這いつくばって、彼女がロランにいいようにされているのを見ているだけ。



 情けなかった。



 二度も、目の前で何もせずに眺めるだけの傍観者になっている自分が。






 これまでは父に対する恐怖と生きること事への絶望ばかりがユウの心を占めていたが



 この時、初めて、



 力ない悔しさと、それを感じてもこの場から動けない自分への怒り



 その全てに支配されたのだ。



 

 そして、知る。



 自分は力がないのではない。力を使っていないだけ。



 自分の力から逃げているだけだと。



『恐れないで、貴方は父親とは違う。魔法が恐いのは私も一緒よ、だから誰かの為に使うの。誰かを守るためにね』



 ルミアの言った言葉が頭の中に響く。




 守りたいと思った。



 自分にその力があるのなら、彼女を守りたいと。



 強く、強く、望んだ





 その時



 ユウの心の奥底で、



 何重にも閉まっていた箱の、錆びきった重たい錠が



 約十五年の時を経て、



 静かに、開いた―――――







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