パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

通り雨が連れてきてくれた、部長との出会い。
それが、こんなにもかけがえのないものになるなんて、あのときの私は知らなかった。
光の見えない恋しか知らなかった私に、ありったけの優しさを教えてくれたのは、部長だった。

愛しくて大切で、胸が震える。
不意にこぼれた涙。
抱えきれない想いが溢れていく。


「おい、泣くなよ」


部長が慌ててポケットを探る。
取り出した真っ白なハンカチで、私の目元をそっと拭ってくれた。


「それで、返事は?」

「……はい、喜んで」


答えると同時に、額に部長の唇が触れる。


「それと、もうひとつ」


部長は人差し指を立てて、私の顔を覗き込んだ。


「“部長”っての、そろそろやめてくれない?」


思わず口を押える。

琴美にも言われていたんだ。
『いつまで部長って呼ぶ気?』って。

< 275 / 282 >

この作品をシェア

pagetop