パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを
「そうですよね……。何て呼んだらいいですか?」
「何って、名前でいいだろ?」
私にプレゼントしてくれた、部長の名前の一部。
今ではそれが海二の名前の一部に。
私にとって、部長の名前は特別なもの。
それを今ここで……。
「仁……」
呼んだ途端、部長に抱きすくめられた。
「二葉、三人で幸せになろう」
耳元で囁いた部長、……仁に頷いた。
「お取込み中のところ申し訳ないんだけど、ちょっといいかなー?」
軽い咳払いのあと、聞こえてきた声にパッと身体を離す。
見ると、そこには海二の手を引いた琴美が立っていた。
ボルドーのドレスワンピを着た琴美が、ニヤニヤという笑みを浮かべる。
コートをなかなか脱がなかったのは、それを着ていたからなのだ。
そんな格好をしていることが私にばれれば、サプライズ効果が薄まってしまう。
海二にいたっては、黒いタキシード。
それは“小さな仁”とでも呼ぶべき格好だった。