彼は誰時のブルース
宇野泰斗だ。
伏し目がちに団地から出ていく。
こちらには目もくれない。私も声なんてかけない。できる限り間隔を空けて歩く。
久しぶりに彼を見た。
背が高くなった。170センチの私の父よりも大きいようだ。
青いチェック柄のズボン、薄い青色のワイシャツ。髪も整って模範的に制服を着こなす姿は、入学案内のパンフレットのモデルのようだ。
自分の制服に目をやる。同じ薄い青色のシャツ。寄ったシワを少し伸ばした。
何を隠そう宇野と私は、同じ高校に通っている。
かといって同じクラスにはついに3年間ならなかった。宇野は文系クラスで、私は理系クラスだ。学校で会うことの方が少ない。
義務感で、団地で出くわした時は挨拶する。けど、高校では会釈もしない。
だから、宇野と団地が同じということは高校の人達は知らない。宇野も私も勿論言わない。言う必要もない。
先を歩いていた宇野は、いつの間にか曲がり角を曲がったのか、もういなかった。
・
高校まで来ると、自分の力量なんかは嫌でも見えてくる。努力出来る人は出来るし、できない人は落ち潰れていく。
「つむぎ、中間はどうだった?」
「まあ、平均点かな」
試験の時の出席番号順で、隣の席の貴美が話しかけてくる。
なんとか高校に合格できたと思えば、もう高校3年生だ。まだ受験なんて考えたくもないのに、やらなければならない課題は山のように積み重なる。
「てか、数学何点?」
「…85」
「平均点超えてるじゃない!」
「文系がクソだから理系に入ったんだよ、私は」
私だって理系なのに、とぼやく友達を軽く無視する。 点数競いなんてくだらない。
机に1つ影ができる。友人の七海が机に手を置いてしゃがみこんだ。
「ねえ貴美、購買だよね」
「うん」
「あれ、今日つむぎも?」
七海が立ち上がって私を見る。欠伸を堪えながら、こうばあい、と間抜けた声で答えた。