彼は誰時のブルース



「あのさ」


 遂に、話しかけられた。どういう風の吹き回しなんだ。


「…はい」


 少し遅れて返事をする。学校で話をするのはおそらく初めて。顔が引きつるのを感じた。見上げると宇野は、

「悪かった」

と謝った。目がまともに合う。私は慌てて逸らす。

「別に、並んでなかったから。ほんとに」


 何を謝る必要がある。たかが食堂の順番だ。大丈夫、と言いかけた時、宇野がメニュー表を指差した。

「メニュー、何にするの」

「…まだ、決めてない」

「そう。連れが邪魔で決めきれなかったよな」


 顔を上げる。くどい。とは言わないが。無表情の彼に、私は愛想笑いを浮かべた。

「気にしないで。ほんとに」

「しつこい」

 間髪入れずに言葉が返ってきて、思考が固まる。


「と、思ったろ」

「…そんなこと、ないよ」

 舌打ちしたい気分だ。バツが悪い。今日に限ってなぜ絡んでくる。

 ふいに宇野が何気なく、でもしっかりと、私と目を合わせてきた。私の考えていることを見透かすような目だ。


「……っ」


 この目は、すごく苦手だ。顔を背ける。


 ようやく順番が回ってきて、私は購買のおばさんに「タラコのおにぎりと惣菜セット下さい」と言う。するとすぐ横から、「俺もそれ」と宇野が声を出した。


「順番よ、待ってね」


「ごめんなさい、タイミング間違えた」と宇野は頭をかきながら笑った。

 そのまま、距離を詰めてきた。体が強張って1人分離れた。


「あのさ」


また半歩、距離が縮まる。


「今日、一緒に帰らない?」






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