恋風吹く春、朔月に眠る君
一番奥にある桜の木の下へと向かって歩いて行くと、木の後ろから木花が顔を覗かせた。
「上手くいったようですね」
「なんで分かるの?」
「クラスで楽しそうにお話してたじゃないですか。そんなの見なくても、その顔を見れば分かりますけどね」
得意げに話す木花はあのいつものちょっと意地悪な感じの優しさがある。でも、今は最初の時の変な幽霊みたいな感想はなくて、そこにたくさん私の為の優しさがあるってことが分かる。私の為に、木花はたくさん言葉を使って教えてくれた。今なら一人で考え込まずに誰かに話すことの大事さが分かる。
「そんなに分かりやすい顔してるかなあ?」
「ええ、落ち込んだ顔してないですから。ちゃんとお友達に相談してあげてくださいね」
「ありがとう。大丈夫だよ。朔良が今日は体調不良で休みだったんだけどさ、それで私のせいだ! どうしよう! って杏子に言ったら笑われたとこなんだ。でも、いつもみたいに考え込まずに済んだよ」
「それは良かったです」
ふふふっと上品に笑う木花を見て、私もつられて笑ってしまった。ほんとに、思ったより落ち込んでない私が不思議だ。
「朔良と仲直りするのはもうちょっと時間がかかりそうだけどね」
「大丈夫ですよ。双葉さんなら」
木花のその言葉が力強い。そうやって元気づけてくれたおかげで、私は頑張れた。やっぱり、今日の部活帰りに朔良に会いに行こうかなあ。
「うん、もうちょっと頑張ってみる」
「ええ、独りじゃないですからね」
そう。独りじゃない。私は恵まれているなあと思った。それを知ることが出来たのは木花のお陰だ。
「へへへ、木花だいすき」
「それは彼に言いましょうね」
思わぬ攻撃を食らった。心臓が吃驚したけど、青白い木花の顔がなぜだか赤い気がして、全然ダメージはなかった。それから暫く、他愛もない話をしてから部活へ向かった。