わたしの意地悪な弟
 「樹って誤解されやすいタイプだよね」

 帰りがけに涼しい表情を浮かべている樹を見て、思わずそう言いたくなったのだ。

わたしの言葉に樹は怪訝そうな顔をする。

「今日、亜子から花火大火に誘われたの。日和と行くからと断ったんだけど、その話の流れで、樹はわたしが来るなら文句なしに来ると思われていたんだよね」

 樹が眉根を寄せた。やっぱり不機嫌そうな顔になってきた。

 わたしは慌ててフォローする。

「樹は最近わたしに優しいから誤解されているんだろうね」

「別に、千波の友達に誤解されてもいいよ。困らないし」

「そうだけどね」

 樹に好きな人ができたらそうはなくなるんだろう。

 そこで脳裏を過ぎったのは、あの宣戦布告をしてきた派手な女の子だ。

 あれから彼女が何かを言ってくることはないが、こういうことが広まればまた言われる可能性もある。

 樹はあの子と仲がいいのだろうか。

 わたしは樹とその子が一緒にいる場面を見たことは一度もなかったし、名前も知らない子との関係を樹に聞くのも気が咎めていた。

 そういう意味では日和も一緒に花火に行くのはいい案かもしれない。日和も一緒なら仲の良い兄弟で終わらせられる。

 日和に亜子の提案を話すと、両手をあげて賛成してくれた。彼女も小梅ちゃんを誘ったらしく、四人で花火大会に行くことになったのだ。
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