わたしの意地悪な弟
 お風呂あがりに部屋に戻ると、ちょうど樹の部屋の扉があいた。

 彼はわたしと目があうと、目を見張った。

 お風呂にでも入ろうとしたのだろう。

 わたしは頭を下げると、ドアノブに手を伸ばす。だが、その手を樹がつかんだ。

「半田先輩の家に行くんだ」

 日和との話が聞こえたのだろう。
 わたしは頷いた。

「断れよ」

「何で?」

「理由はない」

「断わらないよ。楽しみにしている」

「だから断れって」

 彼の一方的な言葉にむっとした。

 半田君の誕生日に利香たちと一緒に彼の家に行く。それだけなのに、なぜわたしだけが彼に指図をされないといけないのだろう。彼は自分が女の子と一緒に遊びに行ったことも黙っているのに。

 その不満と、樹と彼女が一緒にいたと聞いたときのショックが重なり合い、弾け飛んだ。

「樹だって女の子と一緒にデートしていたんでしょう。わたしにあれこれ指図しないでよ。わたしが誰とどこに行こうが勝手でしょう」

 彼は一瞬、顔をひきつらせた。知られたくなかった、そう告げているような気がしたのだ。

 初めて心の奥から発した冷たい言葉に、樹の腕が解かれていった。

 彼は無言でわたしのそばを通り抜けると、階段を下りて行った。
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