わたしの意地悪な弟

「そういうこと。お姉ちゃんも樹も分かってないよね」

 日和はそう笑うと、わたしの背中を叩き、樹に声をかけると、信号まで駆けて行く。

 わたしは日和を見送りながら、彼女の言葉の真意を考えていた。

 分かっていないって何が分かっていないんだろう。

 樹のことだろうか。

 あんな不可解な行動を理解できる人がいたらそれはそれで奇跡に近い。

 日和はきっと彼と仲がいいからこそ、理解できるのだろう。

 学校の近くに来た時、澄んだ声がわたしの耳を霞めた。

 振り返ると小柄なのにも関わらず、細身ですらっとしたロングヘアの女性がこちらにかけてきたのだ。

 彼女の頬は冬の寒さのためか、赤く染まっている。

「藤宮君、おはよう。話があるの」

 あの佐々木という少女だ。彼女は思いつめたような真剣な目で樹を見つめている。
 樹がやっとわたしと視線を合わせた。

 彼女はそのタイミングでやっとわたしがいるのに気付いたようだ。

 彼女の頬が赤く染まる。
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