わたしの意地悪な弟
「お姉さんと一緒だったんだね。また、後からで良いよ」

「構いませんよ。わたしは先に行きますので」

「姉さん?」

 樹が驚いたようにわたしを呼ぶ。

 わたしは振り返ると、微笑み、じゃあね、と告げた。

 だが、今度はわたしが樹とは決して目を合わせなかった。

 樹が彼女をどんな目で見ているのか気づいてしまえば、わたしの失恋が決定的なものとなる気がしたのだ。

 もう思いが届く可能性がゼロに近いのにも関わらず、わたしは宝くじにかけるような可能性に浸っていたのだろう。

 自分の馬鹿さ加減に笑いが出てきそうになる。

 だが、わたしは二十歩も歩かないうちに足を止め、振り返っていた。

 彼女の潤んだ瞳が頭から離れなかったのだ。

 樹とあの少女が横道にそれ、すぐに姿が見えなくなる。

 わたしは何かにかられるように、二人の後を追っていた。

 何を考えていたのか分からない。自分のみっともなさを自覚していても、そうせずにはいられなかったのだ。

 すぐに二人の姿を再び見つけた。

 二人は近くの公園に入ると、公園の隅にあるベンチに腰を下ろした。
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