わたしの意地悪な弟
 彼女は寒いのか、何度も手に息を吹きかける。

 そして、真剣な目で樹を見据えた。

「ごめんね。朝、呼び出して」

「いいよ。別に。話って何?」

 樹はいつもと同じように淡々と話をしていた。

 そんなことにほっとするわたし自身に嫌悪感を覚えていた。

「わたしが少し前に告白したの、覚えているよね。わたしとの関係を、少しは前向きに考えてくれた?」

 少女の迷いなき懇願に、わたしは二人の後をつけたことを後悔していた。

 わたしは自分であとをつけたのにも関わらず、少女の告白を聞きとげるのを待ち、そそくさと学校に向かったのだ。

 その日は憂鬱な一日を過ごした。

 その日の授業の内容は頭に入ってこず、樹はどう返事をしたのかばかりが気になっていた。

 「はい」でも「いいえ」でも、本人たちが言いふらさない限り、二年のわたしのところまでは話が届かないだろう。

 樹に彼女ができたという話題が聞こえてこないことにホッとしそうになる心を自らで戒めた。
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