わたしの意地悪な弟
 姉としての意見を口にしながらも、樹に対してやり場のない気持ちをぶつけていた。
 自分でもめちゃくちゃだとは分かっていたが、もう歯止めが聞かなかったのだ。

「俺は何度も断ったけど、どうしてもと言われた。好きな相手を忘れられるならそれでもいいって思った。でも、俺には無理だと分かった。だから断ったんだ」

 その眼は今までの冷たいものでも、あざけるようなものでもなかった。出口のない場所で一人ぼっちで置き去りにされた小動物のような目をしていた。誰が樹をそこまで苦しめているのだろう。

 同時にわたしは自分の発した身勝手な言葉を恥じた。

「ごめん。言い過ぎた」

「いいよ。俺ももっと早く断っておくべきだったと分かっていたんだ。忘れられないように逃げようとした罰だよな」

「その人に告白するの?」

 わたしの言葉に彼は目を見張る。だが、すぐに首を横に振った。

「一生しない。俺なんか相手にされてないよ」

 彼はそう自嘲的に笑っていた。

 わたしは彼の放つ一生という言葉に、余計に心が重くなっていった。
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