キミはまぼろしの婚約者
パンを買って教室に向かう途中、隣を歩く窪田が、ふいにこんなことを問い掛けてくる。


「逢坂、足いてぇの?」

「え?」

「なんかちょっと歩き方が変だからさ」


俺の右足を見下ろしながら言われ、ギクリとした。

意識しているつもりだったけど、もしかして引きずってたか……?

しまった、と思いつつ、へらっと笑ってみせる。


「……そうそう! ただの筋肉痛なんだけどさ」


最近の俺は嘘ついてばっかだな、と心の中で自嘲しながら言うと、窪田は呆れたような笑いを漏らした。


「そんなにまでなるって何やったんだよ」

「エロいことっすかー?」

「中学生か、お前の発想は」


ニヤつく小宮山の頭を軽くはたく窪田。

ゆるいやり取りがおかしくて、俺も声を出して笑った。


面倒見が良くて気配り上手な窪田と、お調子者のムードメーカーの小宮山は、俺が転入した直後から仲良くしてくれている。

いつも楽しいこのふたりのことも、俺は結構好きだ。


「でも最近、具合悪そうにしてる時もあるじゃん?」

「あ、俺も気になってた」


窪田の一言に小宮山も同意し、俺はやっぱりギクリとする。

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