キミはまぼろしの婚約者
それも気付かれないようにしていたつもりだったが、バレていたとわかると気まずさが襲ってくる。けれど。


「調子悪い時は遠慮してないで言えよ」

「俺らだって心配になるしねー」


ふたりの気遣いが素直に嬉しくて、俺は笑みを返しながら「さんきゅ」と言った。


このふたりにも、クラスメイトにも、俺の事情をずっと隠し通すのは無理かもしれないな。

部活も、体育の激しい運動も、“腰痛持ちだから”ということにして避けているけど、本当の理由はそれじゃない。

保健委員になったのも、いつ保健室に出入りしても、なるべく不思議に思われないようにするためだ。

できれば卒業まで、事情は明かさずに過ごしていたいんだが……。


そんなことを頭の片隅で考えながら歩いていくと、俺らの教室の前で見慣れた男が立っているのに気付いた。

おいおい、またか……。アイツが4組に来る用事といえば決まりきっている。


「今度は何の用?」

「ぅお」


教室の中を覗いていたキョウに声を掛けると、振り向いた彼が少し驚いたような声を上げた。

ちょっとマヌケな顔に笑いそうになる。

< 116 / 197 >

この作品をシェア

pagetop