社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~

「ん、いいよ。それくらい自分でできるから」

断る私の声に、母がドラマを見ながら言葉をかぶせた。

「お父さんがいつまでも甘いから、料理のひとつもできないんですよ。温めて食べるくらい今どき小学生でもできます」

たしかに母の言うとおりだ。つっこまれた父は「そうか……」とだけ言うと、また本を読み始めた。

ダイニングにはきちんとラップされた食事が準備されている。

空腹で我慢しきれずに、行儀が悪いとわかっていたが唐揚げをひとつつまんで、咀嚼しながら、残りをレンジに入れた。

その間に雪平鍋に入っている味噌汁を温めて、お茶碗にごはんをよそう。

準備ができると、母に聞こえるように少し大きな声で「いただきます」と言い、食事に手をつけた。

「ん。美味しい」

正直疲れて帰ってきて、これだけの食事を準備できるとは思わない。きちんとこなしている人ももちろんいるんだろうけど、自分には到底無理だ。

両親には感謝しなくては……。

「しかし、会社と家の往復で彼氏もいないなんて人生楽しいのー?」

黙ってドラマ見ていればいいのに。

そう思ったけれど、口には出さない。

定期的に繰り返されるお小言の時間だ。あえてなにも言わないようにする。
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