社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~


ちょうど手配していたタクシーが到着した。停車したタクシーのドアが開くと、すぐに飛び乗った。

「さっきのことは、忘れてください。明日からもちゃんと仕事しますから気にしないでください。お疲れ様です」

「おい、大丈夫……」

「出してください」

私の声でタクシーのドアが閉まる。

そこからずっと、膝をみつめて一切窓の外を見なかった。パタパタと落ちる涙でスカートに染みができた。

情けない。仕事もまともに出来ずに、体調崩して心配かけて。

そのうえ、告白までして困らせるなんて。

仕事で無理したのも、無理矢理気持ちを伝えたのも、全部私の独りよがりだ。勝手に好きになっただけなのに、相手のことを考えずに突っ走って告白するなんて。

独りでする恋は楽しいけれどつらい。

でも、恋ができるだけましだ。私はこれから今も胸にある衣川課長への恋を忘れる努力をしなくてはいけないのだ。

実らない恋は早く思い出にしないと、胸の中でどんどん膨らんでしまう。

壊れてしまったひとりよがりの恋を胸に抱いて、疲れた体をひきずりながら帰宅した。

タクシーを降りるときに、ふと衣川課長が送ってくれた日のことを思い出す。

たしかここでチョコが粗相して——。あれから一ヶ月しかたっていない。

あの日私がお酒を飲まなければ……衣川課長に送ってもらわなければ……あの人を好きにならなければこんな思いをしなくて済んだのに。

一度おさまっていた涙がじんわりと浮かんできて、あわてて上を向く。玄関をあけるときには多少はマシな顔をしていないと、過保護な両親が私の状況に気がつかない訳がない。

涙をごまかすために見つめた夜空には、青白く光る月に雲がかかっていた。
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