社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
「このたびは本当にすみませんでした」
私は迷惑をかけた衣川課長に深々と頭を下げた。フロアにいる人の視線がなに事かという風に突き刺さる。
システム上で出荷の手配はされていなかったが、第二営業部で確保していた在庫を回してもらえることになり、なんとか納品日に間に合うことになった。
それも衣川課長が工場長まで掛けあってくれたことて、なんとかなった。
「なんとか、先方に迷惑を掛けることなく済んでよかったな」
「……はい」
「しかし、工場にも無理を言った。今回の経緯を説明するために顛末書を書いて提出するように。俺は部長と話をしてくるから」
衣川課長はすっと席を立つと歩いて行ってしまった。
指導もなにもないんだ……。今回のことは明らかに私のミスだ。それなのに、責められもしないなんて。
——呆れた?
その一言が脳裏に浮かぶ。たしかにそう思われても仕方がないほど初歩的なミスだ。
ことなきを得たとはいえ、周りにも迷惑をかけた。信頼を失っても仕方がない。
これまで自分なりに一生懸命やってきたつもりだったが、結果がこれではどうしようもない。
顛末書を書きながらどんどんと気持ちが沈んでいった。
キーボードを何度も打ち間違える。
今さら悔いても仕方がない。私は顛末書を仕上げて衣川課長が戻ってくるのを待ったが、いくら待っていても衣川課長が戻ってこない。終業時刻はとっくにすぎてしまい、手持ちの仕事も終えた。
「私から、言っておくからもう帰りなさい」
そんな私を見かねた隣の課の佐山課長が声をかけてくれた。時計を見ると時刻はすでに二十一時だ。本来ならばもう一度、迷惑をかけたのでお詫びをするべきだと思うが、佐山課長の言うようにこれ以上待つよりも帰った方がいいだろう。
私は申し訳ない気持ちで、職場を後にしたのだった。