社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「だって、お前休憩中には難しそうな顔で資料眺めてるか、どっかに消えるだろう。今しか聞くチャンスないだろ」
こそこそと話をしていると、前の席の人から「うるさい」と小声で注意されてしまう。
私と成瀬が「すみません」と言った声が重なって、お互い顔を見合わせて吹き出してしまう。
そんな私たちをイライラした様子で前の人が睨みつけてきた。
あたりまえだ。さっき注意したばかりなのだから。
ふたりで会釈して、今度は声を出さないように笑い合った。
成瀬が私をつついていたボールペンで、資料に何かをサラサラと書いた。
「続きは、休憩時に」
私は人差し指と親指でOKマークを作って成瀬に見せると、彼は小さく頷いた。
それから私は、彼のおかげでたくさんの同期と話をする機会ができた。研修帰りに一緒に安い居酒屋でみんなで飲んで帰ったり、カラオケやボーリングにも行った。
学生気分が抜けていないといわれればごもっともだ。
けれど、この二ヶ月の研修期間があったおかげで、不安だったひとりで歩き出した社会人としての一歩が、仲間とともに歩くという励みにつながった。
あるとき……たしか仲間内で飲んだ週末の帰り道だった。帰宅方向が同じだった成瀬とふたりで歩いているときに、ふと志望理由の話になった。
「どうやって、自分の力で人の生活を豊かにできるんだろう……って考えたんだ。今の世の中、コンピューターを使ったシステムや家電なしでこの世界は動かないだろう。日芝に入れば家電やコンピューター、システムの構築にいたるまで世界のトップクラスのものを扱える」